あらすじOutline
成瀬純一は、画家を夢見る心の優しい平凡な青年であった。しかし、その平凡な青年に、非凡な現実が襲いかかる。
純一が偶然入った不動産屋に強盗が入り、その強盗犯に拳銃で頭を打たれてしまうのである。しかし、彼の頭に世界初の脳移植手術が行われ、彼は命を救われる。だが、その手術のあと純一の性格は日を追うごとに変貌していった。まるで、別の人格に心が乗っ取られていくように。
復帰した職場で純一は、今まで一緒に働いていた者たちが、いかに向上心の無い無能な者たちであったかに気付き、彼らに反発を覚えるようになる。あげくの果てに、同僚たちの批判を酒の席で口にし、その一人とけんかになり、あやうく相手を殺してしまいそうになる。
また、親から学費や生活費の支援を受け、その実は、毎日遊びほうけている隣に住む学生にも嫌悪感を抱くようになった。その学生の発した「親なんてのは、子供のために金を使ってりゃ満足なんですから」という言葉に激しい憎悪を抱き、その学生を無意識のうちにナイフで刺し殺そうとする。しかし、恋人からの電話で我に返り、行動には移さなかった。
何より彼を苦しませたのは、あんなに愛していた恋人・葉村惠への気持ちがどんどん冷めていくことだった。あれほど楽しかった惠との時間は、無駄な時間を過ごしているとしか感じなくなってしまった。
自分の心が消失していく恐怖に駆られた純一は、この原因が自分に移植された脳の持主(ドナー)にあると考え、そのドナーを探し始める。彼のドナーになったのは、交通事故で亡くなった関谷時雄という人物だった。しかし、そのドナーとなった彼の性格は、むしろ純一に近い性格だったので、ドナーが原因とは考えられなくなった。
しかし、あることがきっかけで、純一はドナーに対して不吉な推測を立てることになる。ドナーは、関谷時雄ではなく、別の人物ではないかという推測である。そして、純一が変貌していく性格にマッチする一人の人物に思い当たるのである。それは、自分の頭を撃った強盗犯・京極瞬介だった。
自分がもっとも憎むべき人間の脳を移植され、その人格に自分の人格を乗っ取られていく恐怖。やがて彼は、一つの決断を下すことになる。
当サイトの管理人より
人間の心というのはどこにあるのか?それが、この「変身」という小説の最大のテーマであろう。多分、霊魂の存在を信じる宗教家などには受け入れられない作品であろうと思う。