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あらすじOutline
独り暮らしの45歳の女性・三井峯子が、自宅のマンションで首を絞められて死んでいるのが見つかった。彼女はある理由で最近日本橋に越してきたばかりの“新参者”だった。警視庁捜査一課と日本橋署の合同で始まった捜査だが、日本橋署に着任したばかりの“新参者”刑事・加賀恭一郎は独自の視点で事件を追いかけてゆく。彼の前に立ちはだかる人情という名の謎。その謎を解き明かしたとき、事件の真実が明らかになっていく。以下、各短編のあらすじになります。
【煎餅屋の娘】
三井峯子が殺害されたその日、保険外交員の男性・田倉が彼女の自宅を訪問していたことから容疑者として浮かび上がる。田倉は、犯行時刻には煎餅屋『あまから』で、そこの娘とそのおばあちゃんに会っていたという確固たるアリバイがあった。しかし彼は、誤解を生むようなアリバイを警察で供述をしていた。しかし、その理由には、煎餅屋『あまから』に関わる重大な秘密が関係していた。
【料亭の小僧】
人形町の料理屋『まつ屋』で働く小僧の修平(17歳)は、店の主人の泰治に、ときどき人形焼きを買いに行くように頼まれていた。泰治は修平に、このことを内緒にしておくように約束させていた。修平は、泰治には愛人がいて、その愛人に渡すものだと推測している。ところが、修平の購入した人形焼きが、なぜか三井峯子が殺害された現場で発見された。そして、その人形焼きを購入した人物が容疑者として浮上することになった。容疑者の一人となった修平は、警察の尋問を受けることになるが、泰治にその人形焼を渡したのだとはどうしても言えなかった。自分の疑いが晴れることよりも、主人の泰治との約束を守ることを選択したのだ。殺された女性は泰治の愛人で、殺害したのは泰治なのか?なぜ、殺害現場に修平が購入した人形焼きがあったのか?
【瀬戸物屋の嫁】
殺された三井峯子宅で新しいキッチンバサミが見つかった。そして、彼女に購入を依頼した人物が判明した。それは、瀬戸物屋の嫁・柳沢麻紀であった。しかし麻紀は、そのことを聞き込みに来た刑事に正直に話さなかった。この瀬戸物屋では、嫁の麻紀と姑の鈴江が険悪な状態であり、夫の尚哉は板ばさみで心労が耐えなかった。しかし、このキッチンバサミがきっかけで、尚哉は嫁と姑の真の姿を知ることになる。
【時計屋の犬】
小舟町の時計屋の主人・寺田玄一には娘がいたが、玄一の反対を押し切って結婚したため、勘当状態になっていた。そんな玄一のところに加賀刑事がやってきた。加賀刑事は、ある女性の写真を見せ「6月10日にこの女性と会いませんでしたか?」と尋ねた。実は、殺された三井峯子は、「小舟町の時計屋さんに会った」と殺害された日の書きかけのメールに残していたのだった。玄一は、彼女と会ったことは認めたものの、会った場所について嘘をついた。会った場所を隠した本当の理由が分かった時、玄一の娘に対する本当の想いが明らかになる。
【洋菓子屋の店員】
殺害された三井峯子は、ある洋菓子屋に足しげく通っていた。そして、そこの定員の美雪にいつも優しく接していた。しかし、当の美雪は、なぜこの女性が自分にこんなに優しくしてくれるのか、まったく検討がつかなかった。そんな美雪のところに加賀刑事が現れ、「この女性を知らないですか?」と三井峯子の写真を美雪に見せた。彼女を知っていることを告げると、加賀刑事はなぜか悲しげな顔をした。「なぜ三井峯子が足しげくこの洋菓子屋に通っていたのか?」加賀刑事は、そのあまりにも切ない真実に気付いていたのだった。
【翻訳家の友】
吉岡多美子は、三井峯子の学生時代からの古い友人だった。しかし彼女は、今や深い後悔の念にさいなまれている。なぜなら、峯子が殺された時刻は、本来なら二人が会う予定をしていた時間帯であり、多美子から急に会う時間を1時間遅らせて欲しいと頼んだからだった。そして、峯子はその遅らせた1時間の間に殺害されたのだ。「自分が時間を遅らせなければ、峯子が殺さることはなかったのではないか」と、多美子は自分を責めた。加賀刑事は、そんな多美子をある場所に連れて行き、峯子が彼女に渡そうとしていたある物を見せた。それを見た多美子は、峯子の本当の想いを知り、溢れる涙を抑えることができなかった。
【清掃屋の社長】
峯子には、別れた元夫がいた。彼の名は清瀬直弘。清掃会社の社長だった。彼は、峯子と別れてからすぐ、ホステスをしていた美貌の女性・宮本祐理を秘書にしていた。そのことから、祐理は直弘の愛人ではないのかと疑われた。そして、離婚前からその関係があったことを知った三井峯子が慰謝料を請求しようとしたことからトラブルとなり、峯子を殺害してしまったのではないかという推測がされた。父と祐理の本当の関係を知りたかった弘毅は、祐理に接触し、彼女から真相を聞きだそうとした。すると、彼女の口から思ってもいなかった真実が語られた。
【民芸品屋の客】
民芸品屋『ほおづき屋』に、独楽をずっと眺める男性客がいた。店主の藤山雅代が声を掛けると、その男性は独楽を一つ購入し、「最近独楽を買った人はいますか?」と聞いてきた。雅代が訝る様子を見せたことから、その男性は、「自分は日本橋署の刑事です」と、その身分を明かした。その男性客とは、加賀刑事だったのだ。加賀は、独楽を購入した人物が、この事件の真犯人だと見抜いていたのだ。しかし、その独楽が購入されたのは、事件のあった二日後だった。それにも関わらず、事件後に独楽を購入した者が犯人であると、なぜ加賀刑事は知り得たのか?
【日本橋の刑事】
三井峯子殺害事件を担当した警視庁捜査一課の刑事・上杉博史は、同じ事件を担当する日本橋署の刑事・加賀恭一郎のことがあまり気に喰わなかった。加賀刑事は、いくつもの難事件を解決してきた敏腕刑事と噂されていたが、上杉が見る限り、とてもそのような人物には思えなかったからだ。加賀は、捜査のときでもラフな格好で現れ、熱を入れて捜査をやっているようにはとても思えなかった。しかし、この事件の捜査で浮かび上がった謎を、次々と解明していったのが加賀刑事であることを知って、あの噂はガセではなかったことを確信する。やがて上杉刑事は、「この事件の真相を明らかにできるのはあなたしかいない!」と加賀刑事に迫られることになる。加賀の言葉の真意とは?
当サイトの管理人より
この「新参者」は、加賀恭一郎シリーズの最高傑作とも言える作品。加賀恭一郎の刑事観が凝縮されて描かれている。短編集でありながら、それがある一つの事件に繋がっているという連作短編集である。