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あらすじOutline
あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店「ナミヤ雑貨店」。しかしその正体は……。5つの物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。
【第1章:回答は牛乳箱に】
空き巣を働き、逃亡中の敦也・翔太・幸平。逃走に使った盗難車が故障で動かなくり、3人は空き巣の下見に来た時に見つけたあばら家で夜を明かすことにした。すると、人が住まないあばら家なのにもかかわらず、真夜中に1通の手紙が投げ込まれた。それは、自分の夢と恋人とのどちらを選ぶべきか、という内容の相談が書かれた手紙であった。このあばら家は、昔、あらゆる悩みの相談に乗るという店主がいる「ナミヤ雑貨店」という店だったのだ。今は誰もいない「ナミヤ雑貨店」に投げ込まれた相談の手紙・・・代わりに、3人が返事を書くことにした。そして、この1通の手紙を通じて、3人は信じられないような体験をすることになる。
【第2章:夜更けにハーモニカを】
音楽の世界でプロとして活躍したいと願う克郎。このまま夢を追いかけるか、それとも諦めて実家の魚屋を継ぐべきかを悩んでいた。克郎は「ナミヤ雑貨店」に相談の手紙を投げ入れたが、その返事の内容は、夢を追いかける克郎を罵倒するものであった。怒りを覚えた克郎は、自分の音楽への熱意を伝えようと「ナミヤ雑貨店」にもう一度手紙を投げ入れたが、更なる罵倒する内容の返事が返ってきた。しかし、この二度目の返事で、夢を追うことに意地になっていたことに気付いた克郎は、三度目の手紙では、夢を捨てる決心を告げる内容を書いた。すると、三度目の手紙の返事には「あなたはやっぱりミュージシャンを目指すでしょう。あなたの曲によって救われる人がいます。そしてあなたが生み出した音楽は必ず残ります。」と、今までと正反対な内容の返事が書かれてあった。奇しくも、その返事を貰ったのが、もう一度ミュージシャンを目指してみようと決意した後のことであった。なぜ、自分の心変わりを知ることができたのか?また、自分の音楽が必ず世に残ると断言できるのか?克郎は首を捻るしかなかった。
【第3章:シビックで朝まで】
妻を亡くしてから生気をなくしていた「ナミヤ雑貨店」の主人・浪矢雄治。そんな雄治を再び元気づけたのが、他人の悩み相談を受けることだった。雄治は、他人からの悩み相談に答えることに生きがいを感じていたのだ。ところが突然、雄治はこの悩み相談を受けることを止めてしまい、「ナミヤ雑貨店」から息子・貴之の家に移り住むことにした。雄治は何も語らないので、貴之にはその真意がつかめなかった。同居生活が始まって間もなく雄治は倒れた。末期の肝臓がんだ。病院での闘病生活が始まって一ヶ月ほど経って、突然雄治が、「ナミヤ雑貨店」に一晩だけ帰りたいと貴之に告げた。貴之は理由を尋ねたが、雄治は「絶対に信じてもらえない」と言って話そうとはしなかった。しかし、店には自分が連れて行くことを約束して、雄治からその理由をやっと聞き出した。だが、それは耳を疑うかのような内容だった。
【第4章:黙祷はビートルズで】
裕福な家庭に育った和久浩介。しかし、不幸は突然訪れた。父の会社の借金のため、一家で夜逃げすることになったのだ。夜逃げすることに納得しなかった浩介は、「ナミヤ雑貨店」に相談の手紙を投げ入れた。しかし、「ナミヤ雑貨店」からの返事は『夜逃げすることがどうしても避けられないことなら、一緒についていくべき』という内容であった。一時は納得して両親と一緒に夜逃げを決行したが、両親の姿に失望していた浩介は、一人で生きていくことを決意し、両親の元からも逃げ出した。ほどなく、浩介は家出人として警察に捕まったが、自分の素性は一切明かさなかった。結局、浩介は「丸光園」という児童擁護施設に預けられ、そこで新しい戸籍を取得して新たな人生を歩むことになった。「ナミヤ雑貨店」のアドバイスに従わなかった浩介だが、その選択は間違っていなかったと今でも思っている浩介。しかし、子供の頃に大事にしていたビートルズのレコードがきっかけで、浩介にとっては耐え難い、悲しい事実を知ることになる。
【第5章:空の上から祈りを】
「ナミヤ雑貨店」に隠れる敦也・翔太・幸平の3人は、最後の悩み相談の手紙を受け取った。相談者は、昼の仕事と夜のホステスを掛け持ちしている19才の女性であった。その相談は、『お金を稼ぐために夜のホステスの仕事に専念したいので、昼の仕事を円満に辞めるためのアドバイスが欲しい』という内容だった。はじめは、安易に金を稼ごうとする女性を罵倒するかのような内容の返事を書いていた3人だったが、何回か手紙のやり取りをした後で、彼女のお金を稼がなければならない理由が育ててくれた人たちへの恩返のためであることを知った。そこで3人は、『「ホステスをやめること」「おかしな男の愛人にならないこと」を条件に、十分な経済力を得る方法を教える』という内容の返事を彼女に書いた・・・やがて3人は、この女性と思わぬ形で出会うことになる。
当サイトの管理人より
この「ナミヤ雑貨店」は連作短篇集である。各章のひとつひとつの物語が関連しあって大きな物語を構成している。加賀恭一郎シリーズの「新参者」でも感じたことだが、その構成が実に巧妙で、より大きな感動を呼び起こす仕掛けとなっている。2012年2月に発表された「読者1万人が選ぶ。東野圭吾作品人気ベストランキング」が、「ナミヤ雑貨店」の単行本が発売された2012年3月以降に発表されていたなら、間違いなくかなり上位のランキングに位置づけられていたであろう。